重厚な鉄のゲートを自分の手で押し開け、ちょっとドキドキしながら、大層な名前がついたビーチを目指す。
ゲートを閉めると眼前に広がるのは、なだらかな丘陵と、のんびりと草を食む牛や馬の群れ。
そして視線の先には、鮮烈な明石(あかいし)ブルーの水平線。
風に乗って潮の香りと混じる牛馬の匂いが、人と自然と動物たちの境界線が混じり合う場所であることを教えてくれます。
通称「牛糞ビーチ」。
あまりにも強烈で、ロマンのかけらもない名前ですが、その実態は石垣島でも指折りの美しさを誇る天然のビーチです。
Googleマップで検索してもヒットしないこの場所は、石垣市が整備した「平久保半島エコロード」の途中にひっそりと存在しています。
ここの魅力の1つは、海に着くまでのプロセス。
入口のゲートを車で越えると、そこは柵のない広大な牧場。
放牧された牛や馬が道路を我が物顔で横断し、時には車の目の前で立ち止まります。
まるでサファリバスに乗って探検しているかのような非日常が、ハンドルのすぐ先で展開されます。
ビーチの名前の由来は、砂浜に乾いた牛の糞が点在しているから。
ただ、海風と太陽に晒されて完全に乾燥しているため、不快な臭いはありません。
むしろ、人工物が一切ない砂浜と、どこまでも透明な明石の海、そして空を優雅に舞うパラグライダーのコントラストは、この島本来のワイルドな美しさを突きつけてきます。
ここは観光施設ではなく、現役の牧場であり、動物たちの生活圏です。
訪れるなら、絶対に守らなければならないルールと、知っておくべきコツがあります。
入口のゲートを開けて中に入ったら、何があっても必ず閉めてください。
「すぐ戻るから」「後から車が来たから」という油断は禁物です。閉め忘れると動物たちが逃げ出し、多大な迷惑をかけるだけでなく、重大な事故に繋がります。
道中で牛や馬が道を塞いでいても、クラクションを鳴らしてはいけません。
彼らが動く気になるまで、のんびり待つ。それもまた島時間の楽しみ方です。
動物たちを驚かせないよう、最徐行で進むのがここのマナーであり、粋なドライバーの嗜みです。
ビーチを過ぎてさらに奥へ道が続いていますが、正直に言います。そこから先へ進んでも景色はさほど変わらず、道は次第に鬱蒼としたジャングルになり、Uターンも難しくなります。
「牛糞ビーチ」で車を停め、海を堪能したら引き返す。それが最も賢い時間の使い方です。
牛糞ビーチがある明石エリアは、市街地から車で1時間近くかかります。
穴場や島の雰囲気を重視するあなたには「北部周辺に宿をとる」ことを提案します。
北部方面の海は石垣島の中でも特に海は美しく、サンゴや自然が豊かで生命の色合いが濃いところです。日帰りの観光客が去った夕暮れ時、明石の海はさらに深い青へと変わります。
夜になれば、街明かりのない空には言葉を失うほどの星空が広がります。
近くには行列必至の有名店「明石食堂」もありますが、近くに滞在していれば、混雑のピークを避けて絶品のソーキそばにありつくことも容易です。
時間を気にせず、牛たちの呼吸と波音だけが支配する世界に浸る。
そのためには、自由な移動手段であるレンタカーと、帰る必要のない拠点が不可欠です。
混雑する市街地を離れ、野底・伊原間・平久保で過ごす贅沢な時間。在住者が教える北部ステイのメリットと注意点。
この場所を単なる「立ち寄りスポット」で終わらせず、記憶に刻まれる「体験」にするために、準備を整えて向かってください。